総括『ツルネ ー風舞高校弓道部ー』悩み進む青春の日の美しき思い出
弓道をテーマに描く、高校生の部活モノ「ツルネ」
制作は水泳に熱い高校生達の物語『Free!』を描いた京都アニメーション。
序盤から美しい映像美に目を奪われる。
スポーツものは漫画では表現しきれない音や躍動感が補強されるからアニメ化や実写化が映える。バレーボールの『ハイキュー!』なんかもアニメでは動きがすごかった。
弓道ということで大きな動きはあまりないんだけれども、その分「静」「動」のキレが活きてくる。
弓道特有のかっこよさが全面に演出されている。
物語も、派手なこともなくどちらかといえば緩やかなアップダウンで進んでいく。
ひとつ小さな山・・というより”丘”を超えると、次の丘が待っている。
その丘は決して超えられないような大きさでもなく、人によっては軽々と乗り越えていけるくらいのものだ。
でもこの”人によっては”というのが意外とネックとなる。
自分は苦労もせずに超えていった丘。それを超えられない人をみると「なんでこんなことができないんだ」とイライラしてしまう。
周りができるのに自分だけができない。その焦りがさらに丘を砂山のようにしてしまう。いちど砂山に足を取られると、なかなか進むことができない。
丘が砂山に見えている仲間にいかにして手を差し伸べるか、自分の目の前の砂山を道として認識できるか。そうやって悩みながらも丘を乗り越えて進んでいく、そんな物語だと思った。
ひとそれぞれに悩みはある。
それが精神的なものであれば、解決策を見出すのは難しい。
立派に見える大人でも、実はすごく心にしこりを残しているのかもしれない。
心のしこりは案外時間が解決してくれない。
結局、精神的な悩み・心の引っかかりを解決するには、周りとの関係や世界の見方を変えてみることが大事なんだろうな。
多感な時期だからこそ、小さな丘が大きな山に見えてしまう。
湊も静矢も大きな山を目の前に足が進まない。でも、一緒に歩む仲間に支えられて大きな一歩を踏み出していく。そして自分なりの考え・結論を持ってひとつ大人になる。
大人になっていく高校生の成長物語としては完璧な作品だと思う。
「ツルネ」のいいところは「一見立派な大人たちも実は完璧でない」ということを描き、高校生たちも理解していく。そして立派でない大人たちが高校生に背中を押されて歩き出せる、と世界観全体で前向きな気持ちにしてくれる。
ライバル校にもきちんと確執を作り、乗り越えなきゃいけない存在として描かれる。
まだ世間を知らない子供のような双子がヒール役として物語をかき乱していく。
かき乱す、といっても悪意に満ちた卑劣で狡猾な手段を用いるわけでなく、純粋に口が悪い実力者なだけだ。しかし、精神的に大人あるいは大人になろうとしている人物が多いだけに双子の子供っぽさが対比として悪目立ちしてしまった。
原作は知らないけれども、多分この双子もこれから壁にぶつかり大人になるんだろう。
繰り返すけど決して派手な作品ではない。
古典文学のような繊細さに京アニの映像美はまさに芸術。
話数も多くないため、是非いちど観てほしい。
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