たまたま1冊、興味本位で読んだ本がある。
その出会いからJR東日本のSuica、中国でのQRコード決済、GAFAという大きな企業の存在の偉大さを知った。
じゃあ、ソフトバンクは?メルカリは?そんな果てなき探求心が僕の中に芽生えたのだった。
『メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間』2018(日経BP社、奥平和行)
「メルカリ♪」印象的なフレーズのCMでおなじみのフリマアプリだ。
僕は使っていないが、社内の女性社員が「メルカリで買った」と話しているのを聞いたことがある。おそらく多くのひとが利用していることだろう。
また、メルペイがOrigami Payを買収したというニュースも記憶に新しい。
日本内のQRコード決済戦争にひとつの決着がついた瞬間だった。
PayPay を擁するヤフー・ソフトバンクにLINEが仲間入り。すなわちLINE Payもこの傘下となる。
au Pay は楽天Pay との協力関係にある。常に目まぐるしく変化する社会。
メルカリはどのようにして戦ってきて成長していくのだろうか。
この本では創業者である山田進太郎氏をはじめとするメルカリの主要経営陣の出会いや背景・来歴がこと細かく記載されている。
メルカリは突然生まれ、成長したわけでない。本作にはGREEやmixi,楽天やFacebook様々な企業の名前が出てきた。そうした会社を渡り歩いてる人たちとの協力や刺激がバックボーンにある。
読んでいると「あぁ、mixi全盛期のころか」「アメーバとか懐かしい・・」「ソシャゲがブイブイ言わせてた時代ね」と、当時の社会背景を思い出す。あの頃の自分を重ね合わせながら、その時代の王者を強く意識して戦っていた企業がいたことを知ると視点が全然変わってくる。
そういう部分がとてもおもしろく、どんどん読み進めることができた。
ただこの本の特徴として感じたのは、誰かを経営陣に招き入れる際の説明が若干くどい笑
その人の背景や経歴を丁寧に説明してくれ、なんかすごい人なんだなとは分かる。
さらに山田氏との出会いも振り返る。まだ出会ってはいないが何らかの時代に名前を知り意識していたというパターンもあった。
まるで世界史の教科書みたいに、ある時代の出来事が後に誰かに影響を与え交差する、そんな感じで何度も時代が行ったり来たり戻ったり・・・そこが少しだけ読みづらかった笑
本書は12章構成でメルカリ誕生の背景〜メルカリのスタートアップ〜海外進出〜メルペイへの決断までが描かれている。
メルカリ誕生の背景
メルカリの前身である「ウノウ」という会社の話から始まった。
ウノウは「フォト蔵」という写真共有のSNSや迷惑メール対策ソフト、メーリングリスト作成サービスなどをこなしていた。後に携帯電話のGPS機能を活用した「まちつく!」がヒット。この頃はミクシイやグリー、モバゲーがヒットしていた時代だ。
そしてその当時日本進出を狙っていた米企業のジンガがその1手としてウノウ買収するのだ。
が、2010年頃のゲームはカードバトルが流行。「まちつく!」のようなゲームは苦戦を強いられる。その結末として、経営方針の対立により山田氏はジンガを去る。
これがメルカリ誕生へのプロローグとなった。
メルカリのスタートアップ
2013年7月、山田氏は「コウゾウ」という会社を設立、9ヶ月後には「メルカリ」に社名変更をした。
アプリリリースまで苦労も続いた。少ないエンジニアに本業の合間に開発を進めてもらう。ギリギリの状態で回している最中だけどもメルカリを退職したいと申し出を受けたこともある。
開発と並行して、利用規約や業務フローの作成、資金繰りなども必要。とにかく目の回る忙しさなのだ。
とにかくスピードを重視しているのには理由がある。IT・インターネット業界は「先に出した者が勝つ」だから「1秒でも早く出したい」という。
たしかにこの業界は目まぐるしく情勢が変化する。冒頭で述べたようにQRコード決済事情も現在日に日に状況が変わっている。
たしかに早くリリースしたいという気持ちも納得できる。事実メルカリがサービスを開始する1年前、一足先に「フリル」というフリマアプリが世に出ていた。メルカリはあとを追いかけるためにはまず走り出さないといけない。
メルカリが会社設立5ヶ月後、ようやくアプリがリリースされた。
読モを中心とした若い女性をターゲットユーザーに設定していたフリルと違い、メルカリあらゆる年代と性別をターゲットにしている。こうした違いが徐々に勝敗を大きく分けていく。
またリリース4ヶ月後の11月には現取締役社長の小泉氏をメルカリに迎え入れた。彼はミクシイでの経験から資金繰りや広告展開によりメルカリの軌道を着実に安定させる。
そしてついに2014年9月には累計ダウンロード数が500万を達成したのだ。
ライバルが次々と参入&撤退していく中、同2014年11月には楽天が「ラクマ」を始める。そして2016年にはフリルは楽天に取り込まれ、完全子会社となった。
メルカリは先発のフリルを退ける実力企業にのし上がった瞬間だった。
海外進出
創業者の山田氏はウノウ時代から世界を見据えていた。
メルカリのサービスが開始し、ダウンロード数も順調に伸びている最中、山田氏すぐさまアメリカへ飛んだ。「世界で使われるインターネットサービスを創る」以前からそう語る山田氏はやはり1秒でも早くアメリカでリリースしたいと考えるのは自然だろう。
2014年1月にはカリフォルニア州にメルカリ・インクを設立。
当初日米のアプリソースコードは共通であったが、サービスの違いが色濃くなりソースコードに手を加える負担が大きくなっていた。山田氏は変化点が必要となったあるときに「ソースコードを分ける」というひとつの賭けを決断する。
そのおかげでアメリカ版メルカリはアイコンを変えたりホーム画面をシンプルにしたりと、小回りが効くようになった。ネットで買い物をする点でAmazonと同一視されがちで、差別化を図ろうといまも様々な対策を講じている。
メルペイへの決断
2016年に海外市場調査の際に中国に刺激を受けている。当時の中国はすでにライドシェアが充実しており、決済もアリババやテンセントと結びついていた。
「決済をやらないと手遅れになる」そんな危機感をいだき、5月にはメルカリに決済プラットフォームを担当するチームを作り下準備を始めていた。
メルカリは2017年11月にメルペイを設立した。しかし状況は厳しい。『決済プラットフォームを巡る競争は、かつてのフリマアプリと相似形だ。キャッシュレス化の流れを追い風にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク・ヤフー連合という通信を主軸とする3社がQRコードなどを活用した次世代サービスに参入し、LINEや楽天といったインターネット企業も力を入れ始めた。』
メルカリの成功を再現できるか、厳しい環境で新しい挑戦がはじまる。
本書はここで終わっている。
2020年3月現在、状況はまた変化している。Origami Payを吸収したメルペイは今後どのような手を打ってくるのだろうか。日本発のユニコーン企業メルカリ。快進撃をまだまだ見守っていきたい。