この間に引き続きメルカリについて読んでみました。(実はこっちにほうがはるかに先に読了してたのは内緒)
『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』2019 光文社新書 田中道昭 牛窪恵
まずタイトルを見て「お。そういえばそうだな」とこの問題提起に興味を惹かれた。
会社の女性社員がメルカリについて話していた記憶と同時に、ヤフオクについて話していた大学時代の同級生は男性だったことを思い出した。
僕はどちらも利用していない。直感的な疑問として、「どっちが高く売れるんだろう」と思った。
メルカリは値下げ交渉がある。対してヤフオクは値が釣り上がっていく。
例えば『鬼滅の刃全巻セット』をメルカリの相場額でヤフオクに出品したとしたとしてもより高額で落札されるのかな。あるいはヤフオクの落札額より高くメルカリに出品した場合、価格交渉してヤフオク相場程度で収まるのかな。
その時々次第だから一概に言えないんだろうけど、このメルカリとヤフオクを比較するということが非常に興味深いテーマだ。
著者が田中さんと牛窪さんというのも読むきっかけのひとつだ。
この本を読む以前に『GAFA X BATH』で名前を知っていたからだ。牛窪さんもよくテレビでお見かけしていた。ちなみに恥ずかしながら牛窪さんの著作を読むのは初めてでした。
さて、本書では牛窪さんによるフィールドワーク・リサーチパートと田中さんによる分析・マーケティングパートにて構成されています。田中さんは牛窪さんの原稿を読んだ上での補足追記しています。
メルカリの価値
牛窪さんは、メルカリの魅力を「コミュニケーション」だとしています。
それは出品者・購入者の評価システムや値下げ交渉に大きく由来している。
メルカリに限ったことではないが、フェイスブックでも食べログでも「いいね」の機能や評価するシステムが標準装備していることが多い。自然と「多くの人が見ている投稿」や「評判の良いお店」に目を通してることになる。こうした機能により、無意識に評価の高い出品者・購入者とのやりとりを求めてしまう。
書きながら思ったけど、あるいみ中国の胡麻信用みたいなもんだなコレ笑
ただ、この信用が安心感を与え、積極的にネット経由で知らない人との取引ができる大きな所以ではある。
対話好きなユーザーにとっては価格交渉のコミュニケーションはメルカリの醍醐味となっている。なんとなくウィンドウショッピングをしながら店員さんと話をするような「癒やしの時間」になっていると言えよう。ヤフオクは競り勝てるかどうか緊張感がある戦場だが、コミュニケーションが不要・面倒と思う人に向いている。この「共感」「調和」がウケているのだという。
また、本書でメルカリの現取締役社長兼COOの小泉氏に直接話を聞いている。
小泉氏は『捨てるをなくす』をキーワードにしているそうだ。例えば愛着があるけどどうしても着なくなった服、捨てるのはもったいない。こうした状況で売れてお金になればユーザーはうれしいが、それ以上に「自分の好きだったものが認められた」という承認欲求につながるのではないか、という。
なるほど、この視点は少し意外だった。たしかに、大事にしていたものを手放すのは心が痛い。ほしい人に譲ることで承認欲求が満ちるというのはおもしろい発送だと思った。
メルカリのミッション、いわゆる経営理念は「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」とされている。
自分に不要になったモノを誰かに認めてもらうことが、新しい価値につながる。この「認めてもらう」がメルカリヒットのキーである可能性があるのか。
さらに牛窪さんはメルカリの消費者の声への反応の早さを評価している。かつてメルカリでの「宿題作文代行」といった出品が問題となったとき、「宿題の完成品の出店禁止」と宣言された。
メルカリは過去にも「現金」「入金済電子マネーカード」「現金で作った折り紙」の出品に対しての禁止宣言している。先日紹介した奥平和行著のメルカリによれば、ツイートが話題になった当日中に新ルールを定め、5日後には顧客サポート体制の強化と合わせて発表されている。この対応の早さは本当に評価されるべきことだと思う。
自分の勤め先もそうだけど決済までのフローが長過ぎる・・。トップダウンはあっという間なんだけど、問題がボトムアップされるときの解決に時間がかかりすぎるのどうにかならんかね・・笑
つまりはメルカリは「コミュニケーション・共感性」を入り口に、承認欲がくすぐられてハマっていく、さらにきめ細かいサポート体制によりユーザーが離れにくいシステムになっているということだろうか。
どうやらお得に売り買いできる以上の魅力がありそうだ。
メルカリの武器
続いて田中さんはメルカリを「Amazonに対抗できる可能性がある企業」としています。メルカリの武器は細かいサービス以上に「シェア」という新しい価値観を市場に提供していることにある。モノ・場所・時間・経験、ありとあらゆる価値が「シェア」共有化される時代になりつつある。このシェアという考え方が経済・社会・生き方を今後大きく変えていくだろう。
フリマなのに、なんで「シェア」なんだろうか。
作中にわかりやすく説明されていた。
『Aさんが欲しい服が1万円で売られていました。・・メルカリでチェック。すると同じ服が7000円で売られているのを発見しました。・・あとで7000円で売れるのなら実質負担は3000円のみ。・・・・「服を所有する」という概念はすっかり希薄になっている』p71
こう読んでみるとたしかに買った服をほかへ回すことを前提に思考している。メルカリでの購入者も服のシェアを当たり前に受け入れている。まるで衣装レンタルなんかよりもよっぽど自由度の高い衣装貸しだ。
まぁ、『メルカリ』を読んでみるとメルカリよりも先にフリマアプリを展開していた「フリル」は積極的に読モを取り込んでいた。彼女らは自腹で購入し、都度違う衣装を着なければならない。一度着た衣装を売って別の衣装を買うということがうまくハマった。彼女らは服そのものをシェアしつつ、洗練されたファッションセンスで見事に服を着こなすのだ。
メルカリが定着し、様々な行動や価値観が変化したといいます。
例えば「価格の決定権」。コレまでは売り側に価格決定権があった。しかしメルカリによって未使用品を含めた中古品市場での価値が定められる。1万円で売っているものがメルカリ市場だと3000円だったりする。すると、もう新品を1万円で買おうとする人がいなくなってしまい、3000円に近づけざるを得なくなる。アダム・スミスの「神の見えざる手」の理論は再びメルカリ市場で目にすることができるようになった。
また、消費行動も変化しています。服を買う際にメルカリで価格をチェックしてから買う、というのが一般的になりつつある。カカクコムをチェックするのも同じような動作だ。とにかく、メーカーや卸売店、販売店のマージンや流通コストは完全度外視の純粋なる製品価値をチェックするのが当たり前になる。いい商品は値崩れしないので安心して購入される。消費者のウケが悪い商品は小売価格との乖離が大きくメルカリで試すほうがはるかにお得になっている。
やっぱりこうした行動変化を促す仕掛けづくりができる企業は優位にたてる。
メッセージのやりとりは普通はLINEを使う。みたいなものだ。習慣づいてアクセスが増えてやがてそれが日常になる。
メルカリはAmazonに並び、超えることができるのだろうか。
今回、2冊の本でメルカリについて調べてみました。
書籍に取り上げられるというのはそれほど注目されている証拠だといえよう。
メディア露出も多いし事業内容も分かる。しかしその詳細まで調べてみようと思う人は意外にも少ないんじゃないか。
こうしたいわゆるテック企業・プラットフォーマー企業の戦略やマーケティングはリアルで生々しくておもしろい。今一番調べがいがあるおもしろい分野だと思う。