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感想『窮鼠はチーズの夢を見る』話題の和製BL。ベッドの上での成田凌の演技力と大倉忠義の色気

窮鼠はチーズの夢を見る 豪華版 (Blu-ray Disc)

 

窮鼠とは「追い詰められて逃げ場を失ったねずみ」だそうです。

 

和製BLとタイトルにしたけれども、厳密にBLといえるのか。そもそも恋愛作品をBLとそうでないものとジャンル分けすることが間違っているのではないか、そう訴えかけるような作品だ。根底には「人を愛する」という共通のテーマを描いている。相手が同性だろうが異性だろうが、線を引いて区分けする必要なんてないのかもしれない。

 

 

さて、この映画のねずみはまさに主人公の大伴恭一だったと思う。

この大伴という男、流されやすくてかなりの悪い男だ。誰も傷つけたくないが自分が一番傷つきたくなくて周りに一番ダメージがあるような選択をしつづける。自分が傷つかない代償に誰かが傷を請け負っている。表面的な優しさなんて何も生み出さない。

 

恭一のお相手、今ケ瀬役は成田凌くん。『スマホを落としただけなのに』でも思ったけど成田凌って独特の色気というか演技力があるよね。丁寧語の「あなた」呼ばわりのストーカー気質、スマおとのキャラとちょっと被る。とにかく目で物を言う。言葉を発さなくても表情の付け方や細かな仕草が魅惑的に映る。

愛の重い粘着ストーカータイプで普通に怖い…。気を引きたくてわざとバレるように付け狙っているけど、探偵の仕事してるから普通に密偵スキルはあるはずだよね。

 

 

同性を愛したその先は 

考察や感想もまだ見てないし、純粋な感想だけども、最後なんで別れちゃったんだ?

見落としちゃったかな。婚約者が帰るやいなや今ヶ瀬を連れ込んで身体を重ねて、婚約者とは「明日に別れる」と話した。「恋愛でジタバタもがくことより大切なことがある。お互いそういう年だろ」っていう言葉が引っかかったのか、今ヶ瀬は朝には消えてしまう。(彼の心である灰皿を自らゴミ箱に捨てていった?)

大伴ははじめて有言実行して婚約者に別れを告げるも、今ヶ瀬にも別れを告げた。

ここらへんが全くわからんかった。今ヶ瀬はまだジタバタと恋愛していたかったのかな。愛して妬いて求めて突き放して、恭一とはまだずっとそういう恋愛をしていたくて、「恋愛の終了宣告」に乗れなかったのだろうか。

 

そもそも、この社会ではストレートを前提にして成り立っている。恭一のような元々ストレートである人物からしたら「恋愛」→「結婚」と段階を踏んで次のステージに進むのが一般的だ。しかし今ヶ瀬のような同性愛者には「結婚」というステージは与えられていない。同棲しようがパートナーシップを結ぼうがその先にあるものは結婚ではなく、恋愛の延長線でしかない。どんなに求めようが次のステージがない。恭一は結婚ができないことを腹を括ったつもりだが、求めていることはストレート社会の文化に則っている。今ヶ瀬はこれまでの人生でストレート社会との違いを嫌というほど実感してきたはずだ。そんな今ヶ瀬に、恭一がストレート文化をあてがって「恋愛はおしまい」と締めくくったことが、実質の別れと感じてしまったのかもしれない。

 

 

美しいビジュアルと空気感

それはそうとして、ところどころの「画」はよかった。

粘着同性愛男性に惹かれていく、流されやすいストレート男性。別れてもまたくっつく、互いの心を埋めていく存在になる。

でも今ヶ瀬は大伴が好きで好きで好きで好きで仕方ないけど、元々ストレート男性ということに不安が拭えない。ストレート男性にとってゲイ社会は鬼門。自分のものであってほしいけど、いつか女性のもとにいってしまうのではないか、「普通に」結婚するほうが幸せなんじゃないかと相手を思う。

成田くんはそこらへんの嫉妬と独占、憧れと諦めといった含みをもたせた目や表情を作るのが本当にうまい。

 

2人の退廃的で目の前だけしかみていないあの空気感が切なさを醸し出していた。

おっさんずラブ』『きのう何食べた』とは違う雰囲気で、ラブコメとも違う大人の恋愛物語だった。登場人物はそれぞれ思うことがあり、表向き口に出さずに、スマートな大人の対応をする。ときには自分のために誰かを傷つける。特にキャッツファイトのくだりは見ていてハラハラした。多分前半の見せ場だよね。

でもその後たたなかった虚しさと自己嫌悪がより一層彼への気持ちを高めるきっかけになる。男性の性行為ってのは相当メンタル依存しているからダメなときってのは本当にダメなんだよね。なのに不倫相手や今ヶ瀬とはできてしまうあたりが闇深い。

 

ビジュアル面については、二人ともいい身体してる。成田くんはゲイ役だけれどもいわゆるゴリゴリってわけでもないし、かと言って人形みたいな美少年ってわけでもない。無駄な脂肪もなくある意味で理想標準的な26歳だった。大倉くんも程よく引き締まってて、遊んでモテるサラリーマンって感じ。役柄上バキバキすぎると普通じゃないけども絵面を考えるとだらしなくあってはいけない、そのあたりのバランス感覚が程よかった。

そんな二人が互いに求め合うシーンは特に迫力がある。二人のプロ意識を感じられた。『娼年』の松坂桃李も迫力あったけど。『怒り』の妻夫木聡綾野剛もなかなかよかったな。いわゆる濡れ場ってどこまで映すか、どこまで生々しさを演出するかってのは役者と制作の気持ちによってだいぶ左右されるよ。ビジュアルだけの美しさに逃げずに描写してると映画全体のメリハリがついていい。

 

原作は少女漫画?(レディースコミック?) 話の展開はくっついて離れての繰り返しなのが、2時間の映画で何度か起きるのはちょっと構成がよくない。変に改変しちゃうと原作ファンが怒るんだろうけど、エピソードをもう少し絞ってくれると個人的に見やすかったかなぁ。あ、でも大伴先輩のフラフラ優柔不断っぷりを示すのは成功してたわ。恋愛映画はイチャイチャシーンを見てニヤニヤ楽しむものだと思っている。終始イチャイチャしてるだけだと映画にならないので、必ずトラブルやすれ違いを起こすのが鉄板ではある。そうなんだけど、イチャイチャが足りないよ〜。SEX以外の描写がもっとほしかった。耳かきと乳首当てゲームで充分だというのか。。求め過ぎなのか。。。

大伴先輩の愛がわかりづらいからかな。このちょっとした消化不良感は。

 

 

鼠がチーズを求めるのは当たり前。どんなに追い詰められて、袋の鼠になってしまっても、それでもチーズを夢見てしまう。恭一にとってのテーズとはなんだったんだろう。

 

ugatak514.hateblo.jp