ゆうがたヒーロー

日曜の朝でなくても誰だってヒーローに憧れてる

感想『仮面ライダーエグゼイド』ゲームと医療で命に関する倫理観の対立。哲学的にも考えさせられる教育的仮面ライダー

仮面ライダーエグゼイド Blu-ray COLLECTION 1

 

放送当時、毎話衝撃展開がつづいて毎週毎週楽しみだった記憶がある。

いかにして攻略をするのか、システムの裏をかくのか、もったいぶらずに次々と展開しハイテンポで物語に進める。え、これもうクライマックスでしょ、何度思ったことか。

改めて通しで見てみてもその勢いは衰えることがないどころか、一気に見れる分止め時がわからなくなる。数々の仮面ライダーデザインのなかでも思わずぎょっとする異色でポップな見た目とは裏腹に、医療とゲームの命のあり方というめちゃくちゃシリアスで深いテーマをうまく融合している。

 

 

ゲームと医療の倫理観の葛藤

エグゼイドを最も面白くしたのは「ゲーム」と「医療」という2つの軸をメインに据えていたことだ。仮面ライダーでは「戦国」と「果物」や「学園」と「宇宙」など一見関係のないテーマを複合して取り入れていることは多い。しかし数あるライダーシリーズの中でもここまで真摯にテーマを融合させて物語を紡ぐのは珍しい。

主人公は基本的に医療現場側の人間だ。職業柄、従来の仮面ライダー以上に「人の命」に対する責任感が強い。いかなる状況であろうとも人の命を奪うことは許さない。

そこにゲーム会社側の倫理観がヴィランとして立ちはだかる。「コンテニューしてでもクリアをする」という名言(?)があるように、いくつも残機があり死してなお生きていける価値観がみてとれる。

「絶対に死なせない」医療倫理と「死んでも蘇る」ゲーム倫理が常に対立しているからおもしろい。人の命をデータ化してガシャットで管理する、バックアップがあるうちは何度でも再生可能な世界。現代・現実の科学では程遠いが、いつかもし実現可能な時代になるとすればどのような倫理的対立が起こり得るのか、非常に興味深い問いだ。

 

例えばAmazon Prime Video Originalに『アップロード〜デジタルなあの世へようこそ〜』というドラマがある。人間の死後に自身をデジタルなあの世にアップロードできる世界だ。自分の意識を仮想空間に飛ばすことにより、肉体が死んでも現実で生きている人間と画面越しに会話ができる。デジタルな世界での生活は、現実世界での家族や後継人の月額課金によって成り立っており、現実に高いお金を積めば意識上は天国のような快適な暮らしを実現できる。

この世界を理想的な世界とみるか、恐ろしい世界とみるか、人それぞれの倫理観や経験から議論は尽きないことだろう。ただ、アマゾンがオリジナルドラマとしてこのようなテーマで制作したからにはいつか「アップロード」世界を実現しようと夢見ている可能性も否定は出来ない。事実、莫大な資金力とデジタル処理技術を持つアマゾンだ。「アップロード」社会に最も近い企業であることは間違いない。

 

社会はかつてないほどのスピードで変化している。再生医療代理出産、遺伝子操作など様々な技術が進歩しつつある現代、そのイノベーションに対して社会の倫理観の構築が追いついていない。エグゼイド世界の医療従事者は皆、バグスターによる命の取り扱いを認めていない。それでも飛彩だけは小姫を取り戻すためにその悪魔の技術に揺れた。天才外科医が失った恋人を蘇らせるため、悪魔の技術にすがって悪落ちし、目の前の戦友の命を救うために恋人のデータを諦める。医師としての自分の倫理観と恋人を想うひとりの個人としての倫理観。この葛藤の采配がすばらしい。最終回どころかVシネマを経ても尚ビターなエンディングを迎える飛彩はめちゃくちゃかっこいい。

 

アマゾンしかり、幻夢コーポレーションしかり、人の命のデータ化が技術的に可能になればそれは大変素晴らしいことだ。ただ、それが社会に許されないのは小姫のようにいくらでもデータを人質に出来てしまうからだろう。ただ技術のあった大企業が資格も選定もなく擬似的な命を預かることはあまりにもリスクが大きすぎる。

特定企業に任せておくことは出来ないが、かといって国にゆだねて一括管理なんてものも安心ならない。PSYCHO-PASSのようなディストピア世界になりかねないし、どこかの大国が国民管理に悪用するのも想像に易い。

あくまでも仮面ライダー世界の範疇でゲームと医療での命の扱い方の違いを描き、倫理的命題にここまで踏み込んだのは感服せざるを得ない。その点に置いてもエグゼイドはあまりにも完成度が高い。

 

 

永夢とパラドと檀黎斗

 エグゼイドの良さは永夢役の飯島寛騎くんの演技力の高さや黎斗役の岩永徹也くんの怪演が際立っている。特に普段は穏やかな永夢が静かにブチギレる演技は、日々迫力を増していった演技技術の向上の賜物だ。その真骨頂は39話「Goodbye 俺!」。パラドを真顔で問い詰め、パラドの求めていたとおりに戦いながら、極限状態まで死の恐怖を植え付ける。飯島くんの表情とエグゼイドの戦い方、恐怖への演出すべてが相まって最高の1話である。

 

エグゼイドの物語は永夢とパラド、黎斗の3人の動きがターニングポイントになる。

時系列的に言えば

1.黎斗→永夢:バグスターウイルスに感染(以降俺人格)

2.永夢:交通事故手術でパラドが分離(以降僕人格)

永夢はパラド分離後は穏やかな性格がベースになるが、ゲーマーのときだけパラドの俺人格になる。あとはパラドをリプログラミングしたり永夢にウイルスを注入したりしてふたりのDNAは混ざり合う。

この細かい設定が複雑で追うのが大変なんだけど、謎解きも醍醐味のひとつである。

永夢とパラド、すべての元凶である黎斗、3人の関係や立ち位置がエグゼイドの物語の縦糸として機能する。敵によって意図せず改造人間となってしまった永夢。敵の能力を駆使して戦う。このあたりの設定は実に「仮面ライダー」らしい。

この複雑な設定をギミックとしてパラドを分離したり戻したり、試行錯誤をしながら物語を勧めていくのがおもしろい。

 

一見、デザインや設定は仮面ライダーっぽさから遠いところに位置していそうな「仮面ライダーエグゼイド」 。数ある作品のなかでもぜひ多くの人に見てもらいたいおすすめの1作である。

 

 

ugatak514.hateblo.jp