ゆうがたヒーロー

日曜の朝でなくても誰だってヒーローに憧れてる

感想『I Promised You the Moon』『I Told Sunset About You』思春期ドラマの決定版。高校生が大人になるまで

 

PK - BKK - I Promised You the Moon

 

 

「観ている人の感情を壊せ」「情緒を狂わせろ」

 

 

このドラマはそんな目的で制作されたエンタメ兵器に違いない。

 

 

 

これ、リアタイで1週間毎に観ていた人がいたってマジですか。

 

 

いやもしかして前作と合わせて一気観しているような人のほうが殺傷率高い?

 

 

いや、確かによかったよ?5話目とか最初からキリキリと胃が痛かったし、テーさぁ・・またそういうのじゃないんだよ。とか思ったよ。でも良かったんだよ。

 

 

4話目の締めくくりも「は!?!?」ってなったよ。テー、君はどうして隣りにいるオーエウを見てあげないの?って思ったよ。どうしようもなく惹かれていて、でも自分の感情をコントロールできていない所作は前作でも見たよ。でもさ、でもさ。。。だけどもさぁ。

 

 

3話目のおしまいも演出が神がかっていた。オーエウ、テーのためになることをしたいって変わらないのに一番目にしたくない練習風景を見てしまうのは昼ドラ展開そのものだよ。オーエウがいい雰囲気の場面だけ見て立ち去るのではなく、「練習終了!よくできたじゃないか」までちゃんと見たのはよかった。しかしまぁ、先輩もいい人ではあるんだけど罪な人だった。「10年後が想像できない」これは先輩自身の呪いなんだろうな。

 

 

2話は、テーと一緒に夢に向かって歩いてくれる仲間が脱落していく。小さい頃から役者だけを夢見てきたテーには考えが理解できない。裏切られたと感じてしまい、少しずつテーの心は孤独となっていく。同じ方向へ向かっていてもそれぞれが歩む道が違うこともある。しかし、「同じ道」を歩いていきたいのだ。

 

 

1話。正直最初からどこか不穏で脆くて割れそうな気がしてた。田舎から都会への上京、別々の大学でそれぞれのライフスタイルがズレ始める。相手を思いやれば思いやるほどどちらかの生活に負荷がかかる。上京してウキウキしているふたりを見れば見るほど都会の魔物の毒牙の餌食になる気がしてならなかった。そしてその予感は的中してしまった。

 

 

 

「I Told Sunset About You ~僕の愛を君の心で訳して~」(以下ITSAY)

「I Promised You the Moon ~僕の愛を君の心で訳して~」(以下IPYTM)

 

なぜこの2作品を観ると情緒が破壊されるのか。

ひとつ「時間軸の破壊」が起きているからではないだろうか。

 

ITSAYは回想で幼少期から中3までの友達&絶交の経緯を描きつつ、ふたりが再会して親友になって惹かれていく様子を丁寧に描いた。5話まるまる使っても回想を除けば「大学受験」というたったひとつのテーマで3ヶ月程度の時間しか描いていない。逆に言えばどれだけ濃密で急速に惹かれていったのかが分かる。

しかもはじめは互いに好きな人がいる状況からスタートしている。受験勉強に専念しないといけないのにいろいろな感情が邪魔をしてくる。思うように行かない日々や無限ループしてしまう思考に答えのない自問自答。なんど「テー。。。お前さぁ」と思ったことか。しかしそう簡単でなく複雑な感情こそが「思春期」であり、これは「思春期」の映像化なのである。

 

 

I Promised You the Moon

僕らは心をかき乱される

そんな濃密な3ヶ月を描いたあとの続編「IPYTM」は1話で1年の時間が流れる。大学に入学したばかりで日々の生活を無我夢中に過ごす1話から始まり、夢が変わっていくオーエウとがむしゃらなテーのすれ違い、3年になる頃にはいわゆるマンネリで互いの気持ちに向き合えなくなっていく。そして爆発した。テーが泣いて謝っても、これ以上傷つきたくないオーエウは心を鬼にしてテーを許さない。ふたりは道を違える。

さらに1年後2年後と、ふたりは俳優と広告代理店勤務として別々の生活をしていく。

 

ITSAYとIPYTMの監督・脚本家は違うみたいだけどIPYTMの脚本家が鬼畜なリアリストすぎる。1話進むごとに時間が経過して進級していくということをこんなにもグロテスクに描けるのかと思ってしまった。

ITSAYであれだけ焦れったくも、途中で憎しみながらも、やっと結ばれたふたり。

生活環境の変化と時間の経過によってじんわりとすれ違っていく様を描いていくのはあまりにもリアルすぎる。なんでこんなことになるのか、と視聴者に思わせない。ITSAYの濃密な3ヶ月と対比するかのように、小さな綻びが解決されないままあっという間に時間は経過していく。だからこそ見ていて辛い。「頼む、最悪を回避してくれ」と神に祈るかのような気持ちになる。しかし神は無情にも非常な現実を展開していく。「時間軸」が破壊されてしまったことにより、あまりにも無情に流れていく時間を我々は受け入れざるを得ないのだ。薄々感づいていた最悪な展開をテーよろしく嗚咽しながら次に進むしか許されない。

 

神にもすがるふたりの幸せ

我々はテーとオーエウに幸せになってほしいだけなのだ。残酷で非情な神はときどき気まぐれで快楽を与える。大学入学後にはこれほどまでに二人の心を傷つけておきながらも、ときどき二人の心をお互いに引き戻す。作中一貫してふたりは互いを思いやっている。だからテーはオーエウの家から大学に通う無理な生活サイクルにしたし、オーエウはそれをやめるように促した。一緒に同じ舞台に立ちたいからCMのオーディションを受けるし、転学科したい気持ちを素直に話す。テーの主演舞台に少しでも協力したくて忙しい合間に宣伝広告をつくったりもする。少しだけ気持ちが揺らぎ憧れの先輩へ手を出そうとしたテーですら、オーエウを大切にしたい気持ちは変わっていない(おそらく両立できるものだと思っていた甘さはあるけども・・・)。

ふたりはお互いが大切であるというスタンスだけは変わっていない。

初体験を覚えていないというテー。「記憶の上書き」不穏な表現の助言をもらい、演技指導をしてもらううちに先輩への気持ちが大きくなっていった。不穏な出来事とは裏腹にテーとオーエウは初めてのような夜を追体験し、お互いの想いを補完しあう。

神はどうしてこのまま幸せだけで話をまとめてくれなかったのだろう。どうしてあれほどまでに情熱的で地獄絵図のような展開・演出で幕引きしたのだろうか。やっぱり咽び泣きながら僕らは次へ進むしかない。

 

せっかく愛し合えたと思ったのに、テーは相変わらず先輩への憧れが強すぎる。実際、大学生も自らのアイデンティティを確立しきってはいないのでどうとも転んでしまう時期だ。受験期に新たな自分を見つけたばかりのテーは憧れと性愛を混同してしまったのかもしれない。というか多分最終話の最後くらいまで「同じ志を持って切磋琢磨する仲間」に対して、オーエウのときのような「恋人と親友とライバル」という過剰な愛を求めてそう。だから仕事仲間を彼女にしてもののうまく行かなかったんじゃないかなぁ。

 

「公演が終わったら先輩とはもう会わない」オーエウと約束をした。たしかに公演後の打ち上げは仕方がない。でも芸能事務所に誘われた喜びを分かち合いたいのは先輩だった。せっかくのオーエウとのデュエットなのに、テーは全くオーエウに向き合わなかった。先輩が自ら悪役になってでもテーの気持ちを制止したのにすべてを無にする愚行。あれはテーを擁護できない。オーエウの泣きが悲痛すぎる。それまで耐えていた心のダムが決壊したらああなるんだな。演技なのにあんなに痛々しい涙を流せるんだ・・・。

そして私達は最も恐れていた最悪の展開へと進む。

 

シーズン2の呪縛

正直なところ、恋愛ドラマの続編って待ち望んでいる一方でできれば見たくないという気持ちがある。基本的にシーズン1まるまる使ってようやく気持ちを確かめあって「めでたしめでたし」で終わっているじゃんか。だからこそ僕らはその「両思い幸せバカップル」状態を愛でたいから続編を求めるんですよ。でも、大半の続編ってなにかしら気持ちのすれ違いが発生してギスギスしてて、最後にようやく再度ハッピーエンドを迎える構成になりがち。「特別編」とかでなくシーズン2という形で物語を作るには二人で乗り越える苦難が必要なのかもしれないけど、なんとかならないですかね・・・

とはいえ、僕はこのIPYTMはめちゃくちゃおもしろかったし、好きなドラマだと思っている。確かに前述のギスギス感が苦しかったし、幸せだけを望んでいる点は変わらないんだけども、ITSAYの丁寧な前フリがあったから恐ろしい早さで進む時間経過に良くも悪くも振り回された。ブンブンと上下しながら進むジェットコースター、気づいたらハッピーエンドだった、ってな感じ。

 

 

I Told Sunset About You

注目したいところはいくつかあるが、それまでテーは「異性愛者」だと思ってきたし男性を愛することは想像もしていなかったことだ。オーエウが「実はバスが好きなんだ」と聞いてもそのときには偏見もなければそれ自体への嫉妬もない、フラットな感情だった。しかし、「ほぼ彼女」の女友達よりもオーエウと一緒に時間を過ごしたい。オーエウとの距離が近くなることによって自分がわからなくなっていく。オーエウのためになることをやりたい・お世話をして気を引きたい自分。この混乱と戸惑いがあまりにも丁寧に描かれていた。

 

曖昧か明確か女性か男性か

オーエウへの気持ちが最高潮に達したテーは、オーエウを後ろから抱きしめる。手元は自然と胸元へとたどり着く。しかし当然オーエウには乳房はない。次の瞬間にはそんな当たり前の事実に気づき、テーのそれまでの昂ぶりがスーと消え失せる。テーの気持ちがさっと引いたことを感じ取ったオーエウはどれほど傷ついただろう。「胸がない」どうしようもない、埋め合わせられない現実は無情にもふたりを同時に傷つける。

オーエウはすがるように、試しに母親の下着を身につけて自撮りしてしまう。そんなオーエウの気持ちに寄り添える言葉なんて存在しない。オーエウは男性が好きな男性なのであり、女性になりたいわけではない。女性になりたいわけではない以上、テーが求めるような性別にはなれないのだ。そんなことはオーエウが一番わかっている。分かっているのに試してみて、やっぱり違うという現実を目の当たりにして涙する。

一方のテーのメンタルもなかなか苦しいものだった。ずっと自分の憧れだった俳優の「勇健」を見ながらのマスターベーションを試みる。憧れと性的嗜好は違う。だがテーはどうしても勃たない・イけないことにより自分は男性を好きになれないと思い込む。

こればかりは男性にしかわからない事情なんだけど、まったく勃たない相手で射精をしようとするのは想像以上に負荷が大きいし、メンタルに響く。それも外的刺激ではなく、自らオーガニズムを得ようとするなんてことはもはや拷問ともいえる。オーエウと一緒だったら気持ちをひとつにできるはずなのに、勇健で試してしまうからオーエウに応じてやることができないなんて勘違いしてしまう。

気持ちは一致しているのにどうしてこんなに大きな壁があるのだろう。そこが切ない

 

真っ直ぐさの代償

テーって真っ直ぐなんだよね。世の中の当たり前を理解しながら、心がブレることなく真っ直ぐに夢を追いかけ続ける芯の強さがある。だからこそ「男性を好きになることはない」という自分を認められなかった。世の中の当たり前を分かっているから兄貴や母親にそのことを相談することがなかった。前は女友達の下着を気にしていたのに、小さな誘いにも気づけなくなっている。それくらいオーエウに心が向いているのにどうすればいいか分からない。だから中途半端にしかならなくてオーエウを傷つけ続けてしまう。

気持ちが真っ直ぐな性格は大学でも一貫している。だから一緒に夢を追いかけつづけた仲間が「道を分かつ」ということについて理解が追いつかないんだよな。その強い目的意識があるからこそ夢を掴むことができたんだけども、、、

 

 

ITSAYは思春期の映像化である。プーケットの美しい自然、大学受験という大きなイベント、昔からの友達、ライバル、将来の夢、恋、愛、欲。全く同じではないものの、日本でもタイでも若者の悩みは普遍的なのだと思わされる。ITSAYはかつて僕らも経験したような、思春期要素のなにかしらが引っかかるようになっている。だからこそ胸を痛め応援したくなる。これだけ思春期をギュッと凝縮しているのだからハマらないわけがないのだ。

 

 

Billkin&PPとテー&オーエウ

いやぁ〜。めっちゃいいふたりだった。

実は事前にふたりのビジュアル見ててもあまり好みじゃないかな、なんて思ってた。でもやっぱドラマ見ちゃうと変わるよね笑

 

Billkin/テー

テーは自分の気持ちをはっきりさせないし揺れ動きが大きいけど、なんかそんな難しそうな役どころをきちんと演じきってた。Billkinの普通にいそうな少年感がすごい。

まぁそもそもテーって、性格的にはロクな男じゃないじゃんか。あのハッキリしない態度になんどイライラさせられたことか笑

なんというか相手を思いやることが苦手というか、ちょっと自己満足的する方向で思いやりを発揮しちゃうんだよね。大学入学を辞退して譲り渡そうとしたり、「自分のことを脚本にしたら」というアドバイスで劇中で復縁を迫るような内容にしてみたり・・・。視聴者からすれば絶対オーエウは喜ばないことをやってのける笑

でもBillkinの鼻水を流しながらの号泣演技は好きだなぁ。中国語を勉強しようと思ったら教科書が穴だらけだったり、上の空デュエットで振られたあととかの涙。(号泣演技は好きだけど全面的にテーが悪いからフォローしてやれない)

 

PP/オーエウ

PP演じるオーエウはなんといってもあの儚さ。泣きじゃくる顔みてるともっと泣かせたくなるような美しい涙を流す。テーに対する敵意の目・冷たい目線もたまらないし、くしゃっとした笑顔を見れば心の底から幸せなんだとわかるし、ニコッと笑えば自分の気持ちやいいたいことを飲み込んでニコニコしてるなって思う。IPYTMでの赤髪も似合いすぎてイケ散らかしてた。受験期からどちらかというとずっと自信なさげにしてたのに、広告学科で生き生きとしているのをみて、なんか胸がじんと温かい気持ちになった。(もしかしてこれが母性ってやつなのか・・・??)

 

でも、これだけは言いたい。IPYTMで先輩の劇の打ち上げで着ていた胸元がハートに空いたTシャツはけしからんすぎるでしょ。テーへの牽制・誘惑なの??普通あんなの着こなせる?オーエウというかPPおそろしや・・・笑

 

 

ITSAYとIPYTM。良すぎて中毒になるのうなずける。

もう一度記憶をなくしてはじめからこの世界に浸りたい。

 

ugatak514.hateblo.jp

 

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