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感想『LOVE,サイモン 17歳の告白』繊細で平凡な高校生の恋物語

Love, サイモン 17歳の告白 (字幕版)

 

 

やっぱ海外作品はその国の文化的背景をよく勉強しておいたほうが楽しめそうだよな。

向こうは何歳から車に乗ってよくて、何歳からお酒が合法なんだっけ。高校まで距離があるとはいえ日本の感覚だと車通学ってちょっと違和感あるわ。向こうのハイスクール文化がかっこよすぎる。あと出てくる映画や音楽の固有名詞のほとんどが分からなかった。ダニエル・ラドクリフジョン・レノンワンダーウーマンくらい。あとビヨンセ

 

サイモンはゲイをカミングアウトしていない以外は普通の高校生。ひょんなことから同じ高校内に自分の他にゲイがいることを知る。専用にGメールアドレスを作り、コンタクトをとり秘密のメル友になる。サイモンはその謎の彼とメールを交わしていくにつれて、相手に惹かれていく。しかし、うっかり図書館のパソコンでメールをしたばかりに厄介な相手にメールを見られてしまう。このことがサイモンの生活を一変させた。

 

 

 気恥ずかしくなる青春

青春映画なんだけど、見ていて恥ずかしくなる。サイモンがメールを送ってから返信を待ち続けてソワソワしている感じなんか初々しい。インターネット上の見知らぬ相手も含めて初めて自分がゲイであることを公表して話をした。今まで誰にも話していないことを話したんだ。この開放感がサイモンをのめり込ませていった。

「このメールの相手は誰なんだろう」とちょっとしたことから「もしかしてあいつかな」と探してしまうのがかわいい。期待しちゃうと世界が輝かしく見える。するとちょっと背伸びして飲めないお酒を飲んでみたり、バイト休憩の相手に声をかけてみたり。そして勝手に期待して、勝手に失望するを繰り返してしまう。期待だけは膨らんでいくのに、女性の影を感じた瞬間に風船がしぼんでしまう。この繰り返しが結構しんどいんだよね。だけど、相手のことを思っている表情が嬉しそうで微笑ましい。

 

 

サイモンは本当に平凡なのか?

サイモンはこれまで自分のことをほとんど話してこなかった。対抗試合の前、アビーと好みの男性について話をしたとき「こんなときどう話したらいいかわからない」と言った。それまで自分の欲望を語ったことがなかったのだ。普通の高校生である一方で普通の高校生にはないくらい自分を抑圧している。

 

ハロウィンパーティーの夜の会話が印象的だ。

「時々自分だけが世界が違う。楽しいパーティも自分が部屋の向こうから見ている感じ。すべての一部になるためには見えない線を超えないといけない。」

サイモンはこれに共感しつつ「楽しくなるようにトライしていた。」と返した。

多分サイモンはどんなに楽しい空間でもいつもどこか遠くから俯瞰してたんだと思う。周りのように好みの相手に自分をアピールすることもできない。ゲイだと疑われる言動をしないようにきちんと心をセーブしておかないといけない。そうなると本気で楽しめない。サイモンの心は孤独だ。

 

メル友ブルーに出会えたことがそんな孤独からの開放につながった。ダニエル・ラドクリフのことや日頃思っていること、今まで話したことのない自分のことをはじめて語ることができた。そしてアビーへの初のカミングアウト。ブルーが親にカミングアウトをする流れに影響を受けたものだ。カミングアウトにアビーは驚いたけど冷静だった。このときサイモンはアビーに驚いてほしいけど驚かないでほしいと思っていたに違いない。これはサイモンの強い自意識だ。彼にとってはゲイであるカミングアウトはあまりに大きすぎる難問であって、周りにも相当インパクトを与えるものだと思い込んだ。これまで誰にも話さなかったため問題は頭の中で無限に膨れ上がっていたのだろう。一人で抱え込んでしまうことがよくないとされる所以だ。

 

 

サイモンの失敗と成功

サイモンはメールの暴露というアウティング危機に遭遇し、これまで以上に自分の問題にかかりきりになってしまった。アウティングを恐れ、自分の身を守るためなら何でも正当化されるんではないかというくらいに、他人に鈍感になった。多くの仲間を傷つけた。サイモンがその場しのぎの嘘をついていくのは見ていてしんどかった。そして何よりきついのが、問題が表面化したのがアウティングされた後だったというところ。「ゲイだから」ではなく完全にサイモンの自爆で見放されてしまったのは痛い。

アウティングによって、周りの人の視線がすべて自分に向いているかのような気分になる。友達もいない、メールフレンドとも連絡が取れなくなった。状況は最悪だ。

ところでアウティングされた後、カミングアウトについて「どのタイミングでどこでどうやってどんな人に伝えるのを決めるのは僕の仕事だ。決めるのは君じゃない」とまくし立てた。これ、ちょっと感心したわ。すごくいいセリフだと思う。

 

 

サイモンは周りに歩み寄る努力をした。友達にも声をかけ、掲示板で改めて自分の声を伝えた。こういう逆境に際したときに勇気ある行動ができるかどうかがその人の人生を大きく変えるんだと思う。サイモンの勇気に周りも同調し、結果としてメール相手のブルーとの対面を果たすシーンは思わずうるっとした。お前だったのか。完全に候補から外してた。「そこ空いてる?」「待ってる人がいるんだ」「知ってる」この流れが最高すぎた。

 

このハッピーエンドがあったからこそ、途中の気恥ずかしい気持ちや見ていてキツイような場面を帳消しにできる。LGBTを題材にしつつも説教臭くなく辛気臭くもなく見ていて楽しい爽やかな青春映画だった。なによりサイモンがイケメンでかわいい。

ブルーにメールでの別れを告げられたときの涙は『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメのラストシーンと並ぶくらい好きなシーンだ。こっちもぜひ見てほしい。

 

ugatak514.hateblo.jp