ゆうがたヒーロー

日曜の朝でなくても誰だってヒーローに憧れてる

感想『望み』人は情報を自ら望んだ解釈で見てしまう

望み (角川文庫)

 

 

息子が帰ってこない。そんな日に舞い込んできた少年殺人事件。

警察も現れ、被害者は息子と交友関係があったという。

インターネット上ではさらにひとり死んでいるという噂も。

愛する息子は逃げた殺人犯か、殺された被害者か。

 

 

言ってしまえばこれがすべて。予告がすべて。

こういうテーマを描くときに様々な人の思惑を入れていろいろな角度からアプローチをする手法もあるけど、本作はひたすらに父と母(ときどき子供)の視点で物語が進行する。

視聴者もあまり神の視点でモノを見ることができずに与えられた情報から「殺人犯か被害者か」を推測することしかできない。

とはいえ、あまり情報がアップデートされることもなく、どちらかといえばおかれた父母の立場を見ながら「あぁ・・・ツライよなぁ」と思うための映画だった。

どっちに転んでもいい(悪い)ような展開だったけど、その答えでマジか・・・。とちょっとお辛い気持ちになった。分かってはいたけどハッピーエンドにはなりえないね。

個人的にはこういう『怒り』『友罪』みたいな辛気臭くて腹にズンとくるような重たい映画は好きなんだけど、いかんせん大衆受けしないね・・。

あと古いドラマなんだけど『アイシテル〜海容〜』なんかも被害者・加害者のそれぞれ親っていう立場での物語で好きだったな。

 

こういう系の映画って大体マスコミのクズさ無神経さが取り上げられて描写されるけどもマスコミ規制とかできないもんなのかね。

隠蔽につながるとか報道の自由があるとか色々あるんだろうけど、どうみてもマスコミのあり方って異常だと思うんだよね。とりあえず自分はああやって取り囲まれる立場じゃないけども、なんの拍子に囲まれるか分かったもんじゃないし、めちゃくちゃ怖い。

そんなことをブログでぼやけるのも「表現の自由」があるからこそなのも分かるんだけども、人権意識に基づいたルールづくりってのも必要じゃないのかな。どんな凶悪な犯罪者であってもマスコミが四六時中張り付いて行動を逐一報道される筋合いはないわけで。被害者側であればなおさら。

 

 

「加害者の親」になってでも生きていてほしい

「被害者の親」になってでも正しい生き方を全うしてほしい

 

自分では結末を選べない究極の二択。

最終的に信じたい方を選んで、あらゆる情報を信じたい方向へ解釈する。

加害者のひとりが捕まったという情報から、「一緒に逃げている息子もすぐに捕まる」と解釈して差し入れについて調べる母はなんとも切ない。

食べ物の差し入れは難しいと聞いてでも好きなものすぐに食べることできるように作り置きする姿は悲哀すらある。

取引先からの冷たい視線や仕事がなくなっていく様を目の当たりにする父の気持ちも辛い。

丁寧に色々なことを積み重ねながら社会生活を営んできただけに、それが崩壊していくことを受け入れるのは難しいところ。

 

「これまでと同じ生活ができないことへの覚悟」これの解釈が父母で決定的に違うのが致命的だ。

仕事を失い社会から後ろ指をさされながら生活していくのか、死を乗り越えて一人欠けた家族で生活していくのか、父母それぞれで受け入れがたい方向を見ないで覚悟しているだけに結論が出る前から家族が壊れていく様子はえげつない。

 

 

あと異彩を放ってた週刊誌の記者の松田翔太がいい味出してた。

他のマスコミが家を特定・取り囲む前から目をつけて接触してきたうえに、「警察はなにも教えてくれませんよ」と警察が教えてくれない情報を前払いで流してくれる。

どうしても情報が欲しくなった母が記者に電話をかけたときに持ちかけた条件がゾッとした。「息子さんが被害者であれ加害者であれ、その心境を取材させてください。」極限状態に追い詰められた人間に対する悪魔の取引だ・・!さすがマスコミ、ネタになるのならば血も涙もない容赦ない取引条件を持ち出してくるな。

ただ、マスコミとして完全に「加害者側」になった場合の独占インタビューを想定している。この記者は「生きていてほしい」母と望みが一致していた。

 

一方、父が対面しているのは被害者の関係者。取引先の社長の孫だったとかなんとか。

その強い憎しみをぶつけられればぶつけられるほど、息子が加害者でないことを望んでしまう。取引先は完全に主人公の息子が加害者であると信じ切っている。いや、憎しみをぶつける相手が手近に必要だからそう望んでいたのかもしれない。

 

 

それぞれがそれぞれの思惑があるうえでの「望み」

描きたいことはわかるんだけどもね・・・。

劇伴BGMも壮大だし、役者陣の鬼気迫る演技なんかは見どころではあるけど、、、。

 

 


『望み』本予告