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感想『QRコードの奇跡ーモノづくり集団の発想逆転が革新を生んだ』

QRコードの奇跡―モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ

 

QRコードの奇跡ーモノづくり集団の発想逆転が革新を生んだ』小川進 東洋経済新報社 2020

 

 

最近はスマホ決済でもおなじみのQRコード。アリペイが当たり前の中国ではもはや、QRコードが存在しない世界が想像できないくらいに普及している。

このQRコードが日本発の技術だということはあまり知られていない(常識かもしれない)

このQRコードはどのように生まれて、どうやって世界に羽ばたいていったのかが時系列でわかるのが本書である。

 

 

バーコードとQRコードの誕生

開発はトヨタ系列のデンソーデンソーウェーブ)だ。元々トヨタ自動車の電装部分を担っていた。そんなデンソートヨタ自動車の「カンバン方式」を導入することから話は始まる。トヨタが部品を使った分だけデンソーへ部品の発注が行われる効率システムだ。このカンバンを導入したことによってデンソーサイドで処理が多くなり作業効率がわるくなってしまった。トヨタはカンバンと受領書を渡すだけなのに対して、デンソーでは納品書・受領書を作成し検品作業が必要だ。更にカンバンが回れば回るほど納品回数が増えてしまい、作業が雪だるま式に膨大になる。こういった状況を打破する必要があったのだ。

トヨタは、かんばんをこちらに渡すだけ。こちらは、そのために検品や伝票の起票といった膨大な作業が発生する。トヨタではなく、デンソーが「かんばん」の情報化、バーコード化を考えるようになったのは、そういう事情があったからではないでしょうか』

 

「カンバンの処理が大変だ」そう思えば人手を増やしたり、なにか効率化できる工夫をしたりルールを整備したりするのが一般的ではないだろうか。デンソーではカンバンを情報と捉えてバーコードに情報を集約できないか、と考えたことは非常に画期的だと思う。

苦労してバーコード式カンバンができたあとはトヨタで使用してもらえるように粘り強く交渉し、あらゆる不具合に対する保守点検サービスを拡充する。やがてセブンイレブンとのレジや検品をバーコード化が進んだことで、工場のみならず一般社会にも普及していった。

僕はものを買うとき、小さい頃から当たり前にバーコードを活用したレジを通していた。この光景がわりかし最近のものだと知ったのは衝撃だった。もしかしたらQRコード決裁に慣れ親しんでいる世代にはもっと衝撃があるかもしれない。

また、バーコード式のレジを採用したセブンイレブンもさすが先見の目を持ってると感じた。

 

しかし、世の中の情報化社会が目覚ましい。あっという間にバーコードでのかんばん管理が難しくなった。様々な情報を追加しようにも、桁数が足りなくなった。そのため、読み取るバーコードそのものの数を増やしていった。すると、スキャンの数が増えて手間が増えてしまったのだ。

普通はここでバーコードを活用したスキャンの効率化するためのアイディアを考えがちだ。でも先人の開発したバーコードを完全に一新した、より進化させる別のコードを作るという選択をしたのはすごい。環境によっては「先人の努力を無駄にするのか」と反対されてもおかしくない。そういったことがないのは、よりよいモノを生み出すことに肯定的な技術メーカーならではの思考だと思う。

 

 

社会性とイノベーション

『われわれはなぜ嘘つきで自意識過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略』(William von Hippel ハーパーコリンズ・ジャパン 2019) によると

「人間は生まれつき社会性を持っていて、そうした社会性が新たな製品発明の邪魔をしている。ただし社会性は発明品を広く他者に伝え、多くの人が利用・改善するのに貢献している。」という。

この本の中で筆者はスーツケースに車輪をつけるというイノベーションの例をあげた。

車輪付きのスーツケースが一般的でなかった頃には、重たいスーツケースを引きずりながら運ぶか、空港のポーターにお金を支払い荷物を運んでもらうかであった。我々は社会的であるがゆえに、熟練した人間の手作業によって問題を解決させがちなのだ。どんな不便で大変なことも「対価を支払って負担を別の人物に押し付ける」ことで社会を成立させていたのだ。これは人間の柔軟性の賜物であるのと同時に、新しいイノベーションを生み出す障害である。

 

話を戻すと、バーコードもQRコードも、人が作業を熟練させていけば短時間で処理が可能になる。さらに手順を明確化してルールを整備し分業すればより容易になり時短ができたはずだ。なにも時間もお金もかけね新しい規格を開発する必要などない。しかし、そうした人間の能力と社会性に頼ることなく、積極的に新しい規格を生み出したことそのものに大きな価値があるのだと僕は信じている。

さらにQRコードを世界統一規格にするために各国に働きかけた。技術者が自分たちだけが便利になればいいや、といった考えではなく、世界のグループ会社が使えるようにしなければならないという使命感をもっていたのが素晴らしい。先程の話ではないが、人間の社会性が発明品を広く他者に伝え、多くの人が利用・改善するのに貢献したのだ。

 

ちなみに、Netflixは極力ルールを排除している。あらゆるコントロールを排除して責任の対価として自由を与えている。ガチガチに固めた承認プロセスは時間がかかりすぎる上に責任の所在が曖昧になる。コントロール型のルール整備というのは我々の人間の持つ社会性の上に成り立っている。ルールを減らして自由な発想を解禁することでイノベーションが起こる可能性が高まっているのではないだろうか。

 

 

日本でイノベーションが起こりづらいと言われるのは、ガチガチにルールが決まっているからかもしれない。いや、それとも多くの会社ではピンチもマンパワーで切り抜けることが多かったからだろうか。そんな中生まれたQRコードは今や、物流はもちろん特定情報へのアクセスや日常生活での買い物に欠かせない代物になっている。めんどくさい作業があるときに作業フローを改善や力わざで解決するのではなく、まったく新しい規格を生み出すために頭をひねってみよう。もしかしたらQRコードのようなイノベーションが起こせるかもしれない。

 

 

ugatak514.hateblo.jp