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感想『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』邦題は堕ちた天才と読み取ってもいいんじゃね?デスノートやホーム・アローンのような攻略合戦。

バッド・ジーニアス 危険な天才たち [Blu-ray]

 

前々から見たいなーって思っていたけどなかなか機会がなくて見れていなかった「バッドジーニアス」

日本での公開時かな?テレビで映画の紹介をしていてすごく興味をもっていた。

韓国だっけな、中国だったかも。超学歴社会での集団カンニングというモデル事件から着想を得た映画って紹介されていたような気もする。

だから勝手に中韓制作の映画だと思いこんでた。タイ制作なんだね、これ。

こないだの「ラブ・バイ・チャンス」もそうだけど、もしかしてタイの映像作品ってめちゃくちゃクオリティ高い・・・?すげぇおもしろかった!引きがいいだけかなぁ?そもそも2作しか見ていないからサンプル数が足りない可能性も高い。

全然知らなかったけどタイBLがブームらしいので、もしかしたら今後タイ制作映像作品を目にする機会が増えるかもしれないね。これから要チェックだ。

 

 

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↑タイBL「が」世界レベルのラブコメだった ってすべきだったなぁ。反省

 

 

 さて、本作は学校からお墨付きをもらえるくらい頭のいい女子が主人公。

クラスで仲良くなった子を助けようとカンニングの手助けをしたことをきっかけに、大金を対価に更に多くの人にテストでの回答を教えるようになる。

この映画のおもしろいところが、デスノートのような天才による攻略バトルの側面と、カンニング防止策を講ずる大人VS子供によるホーム・アローンのような痛快さがある。

いかにして裏をかいて、防止策が徹底されて難しいカンニングを成立させるかが見どころだ。

次第に壮大になっていくカンニングのためのトリックや、バレるかバレないかの瀬戸際に、テスト時間に間に合うのかどうか、見ている側も緊張感を共有できてハラハラする場面があっておもしろい。

 

カンニングは当然の社会での悪だ。カンニングを金で請け負うことが一般化してしまえば学力の公平性が保てなくなり、一部の金持ちとカンニングで儲けることのできる天才のための社会になってしまう。頭がいい人は倫理観をもって社会と向き合わないと悪用されたときの社会的損害はあまりに大きい。

この映画のタイトルは「バッド・ジーニアス」すなわち「悪い天才」の話である。

この天才たちははじめから「悪」として登場したわけではない。むしろ「善」側の人間として正義感や親切心のある人物として描かれることから始まる。この映画はそんな天才たちが集団カンニングの首謀者と上り詰めていくための「闇落ち」が丁寧に描かれている。クライマックスを飾るテストは世界レベルにまでスケールアップしており、壮大な計画を実行する悪の組織のようにまで成り上がる。カンニングのために多くの人を動かし、綿密な計画を立てて、実行する。その姿は完全に堕ちた天才であり、闇落ちが完璧すぎて性癖どストライクだった。

 

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こっからはネタバレしながら興奮ポイントを書きなぐりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主役にして悪の女軍師リン

登場から垢抜けない雰囲気とは裏腹に目的のためには手段を問わない性格がクールでたまらない。

申し分ない成績で学校からオファーに対し、「懸念点がある」と、学生生活でかかる費用の懸念をを申し訳なさそうに話す。純粋な学費より高額な懸念だったため、学校側は不安を取り除くためにも親切心で正しい金額に訂正した。しかし、リンは「通学費」や「ランチ代」なども含めて見えない部分の経費が懸念だと主張する。

彼女に入学してほしい学校側はその懸念を取り払ってやる必要があり、学費以外もカバーできる奨学金(たぶん返済不要な国際的標準タイプ)を与えることを決定する。

 

冒頭、ヌルっと導入される場面なんだけど、彼女の計算高さが端的に表現されており、映画全体の方向性を示すのに十分すぎる導入だ。ついで行動原理に「お金」が重要な位置にあることもわかる。だからこそ、最初は単に親切心からのカンニングの手助けだったのが、報酬のために規模拡大をしていくことには説得力がある。

 

頭が切れることに加えた大胆な行動力が彼女の魅力だ。

テスト中にうまくカンニング消しゴムを受け渡したり、靴を拾い上げるために立ち上がり何食わぬ顔で先生に提出する。テストの真っ最中に問題用紙を交換したりして、なんとしてもカンニングを成功させてやるという責任感・・といえば聞こえがいいけど、執念のようなものを感じる。

カンニングのために海外受験したり、回答シールを印刷したり行動力が尋常じゃない。

 

人生を狂わされた理想的な闇落ちバンク

リンと同様に学校が推す優秀学生で、模範的な善人として登場する。金銭報酬でのカンニング幇助依頼は友人からの頼みであっても断るような人物だ。そんな友人がカンニングしているのを目撃すると、きちんと教員や理事長に告発してしまうくらいに生真面目だ。告発の結果リンのカンニング幇助が浮かび上がり、彼女の暗躍が明るみになる。

バンクは奨学金で留学することを夢見ており、母親思いの心優しき天才だ。

それなのに、後半は完全に人生を狂わせられてしまうあまりに可愛そうな人物でもある。

 

きっかけはリン達による国際的な大学入試のカンニング計画には「天才」が足りなかったことだ。

それまでのカンニングと違い、同じ空間を共有している人物にリアルタイムで回答を教えることができない。休憩時間を活用したカンニングをするには、回答をすべて暗記しなければならない。そのためにはリンと同じレベルの人物がもうひとり必要であった。

リンは口説き落とすつもりであった。彼の意思は尊重されるべきであるから。

しかし、計画の依頼主であり金持ちのパットはリンに内緒で押しの一手を講じた。

バンクが大学奨学入試の前日に悪い刺客を送り込み、試験を受けられなくしてしまう。

夢を潰されてしまったバンクは信念を捨てて金のためにカンニングの主要メンバーとなる。

 

 

取り戻した天才と壊れた天才

バンクはこの後はただただ「金」に取り憑かれている。夢をぶち壊した主犯がパットだと分かっても最後には金のためと割り切って仕事を請け負う。「答えを送信してほしければ報酬UP」と時間の限られたギリギリの交渉を行う。極めつけはカンニングに失敗しても捕まらなかった事実からより計画的で金銭報酬を得やすい試験でも大規模カンニングを考案するようになる。倫理観を失ったその目は完全に狂ってしまっていた。

 

 

カンニングに失敗して捕まったバンクを見て心を痛めて会心するリンとの対比が悲しい。

カンニング前夜、バンクと二人で撮った写真はリンにとって大切な思い出であった。

リンは自分と同じくらい優秀で真面目なバンクに敬意をもっていた。惹かれていたといっても過言ではない。バンクとの2ショットは、バンクとのつながりを残さないためにリンによって泣く泣く削除した。悪に手を染める前のバンクはもう写真にも残っていない。

帰国してきた彼はもはや別人だった。目の前に居たのは悪事に手を染めて金に取り憑かれ、目的のために脅しをかける卑劣な悪人そのものだ。

リンはバンクの誘いに乗らず、自分の罪を精算するため自分の犯したすべてを告白する結論に至る。

 

ここのエンドは好みが分かれそうだなー。闇落ち大好きマンとしてはリンとバンクで闇の稼業で牛耳っていく支配者エンドになってほしい気持ちもちょっとあった。

バンクが堕ちるまでの経緯と葛藤が丁寧だったのに対し、リンの行動理念はお金ベースでしかなくて、バンクが味方になった後は倫理観で割と揺れるところが多かった。

後半あれだけ葛藤していても結局バンクの誘いに乗っかるエンドなら完落ちで最高だったんだけども、残念。。。

 

まぁそういうエンドだと「直前の葛藤なんだったんだよ」って思う人のほうが多いから、映画としては正しい結末なんだろうな。

とはいえ「葛藤の末に導き出した結論」っていうものの筋が通っているから会心エンドもすんなり受け入れることができた。

 

 

なかなかに面白くて、間違いなく僕のおすすめしたい一作になった。